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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)299号 判決 1948年7月17日

主文

本件上告は棄却する。

理由

辯護人阿部甚吉の上告趣意は後記の通りである。

憲法第三十七條第二項の規定が刑事被告人の證人に對する直接訊問權と證人喚問請求權に關するものであることは所論の通りであるが、その所謂證人喚問請求權が被告人の權利として認められているからと言って所論のように直ちに裁判所が被告人の申請するすべての證人を取調べる義務を負うものと即斷すべきではない。「刑事被告人は公費で自己のために強制手續により證人を求める權利を有する」と言うのは裁判所がその必要を認めて訊問を許可した證人について規定しているものと解すべきであって右憲法の規定を以て裁判所が有する證據調の範圍を自由に定め得る權能を制限し又は奪ったものとすることはできない。この見解は當裁判所が既に判例として示したところである。(昭和二十三年(れ)第八八號同年六月十四日大法廷判決)而して被告人に對しては從來から證人喚問請求權が認められていたには相違ないが、それは單に訴訟法上の權利として認められていたのに過ぎないのであって、新憲法は之を法律を以てしても奪うことができない憲法上の基本的な權利にまでひきあげて被告人のために確保したのであるから、憲法第三十七條第二項の規定を前述のように解することは所論のように同條を空文に歸せしむることにならないのは勿論、裁判所は證據調の範圍を定めるについて、被告人側からの申請であろうと將又檢察官側からの申請であろうと區別なくその必要と認める限度において之を採用すれば足りるのであるから所論の如く檢察官と被告人とを刑事訴訟上對等の地位にある當事者として認めようとする憲法の精神に背馳するものでもない。

ところで記録によって調査をすると、第二審判決認定事実中第二の窃盗の所爲について、被告人は警察における取調以來第一審公判における取調に至るまで終始自白していたのであるが第二審公判において右の自白を飜えして否認するに至ったこと、又第二審裁判所が被告人側から申請した證人小倉佐吉、同妙子の訊問をしないでその申請を却下したことは所論の通りであるが、他に被告人側から申請した數人の證人を採用して取調をしているのであって、被告人の第二審における辯解の供述その他右取調にかゝる各證人の證言等からして既に心證を得たので右の證人小倉佐吉、同妙子に對する證人訊問を必要なきものとして却下したものであること明かであるから何等所論のように憲法の規定に反するものではない。從って原審が第二審判決は何等違法でないと判斷したのは當然であって論旨は理由がない。

仍て刑事訴訟法第四百四十六條により上告人の上告は理由なきものとして主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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